さまざまなデザインや間取り、自分の生活にあった住環境を選べる賃貸物件は、一人暮らしに限らず大変便利ですよね。
しかし、購入した住宅と違い、賃貸物件はあくまでも「借り物」です。借り物である以上、いつか持ち主へ返すときに借りたときと同じ状態にしていく義務が発生します。
これが「原状回復」です。
原状回復は、入居者が負担する「借主負担」と大家さんが負担する「貸主負担」に分けられます。
実際に費用が発生した場合、この負担割合をめぐってトラブルになりやすいのが賃貸物件の難点の一つともいえるでしょう。
入退去時に限らず日常生活でも起こり、程度によっては裁判沙汰になるケースもよく見られます。
ここまで聞くとなんだか怖いですが、日常生活を見直したり事前に対策しておくことで、費用の発生を防ぐことは可能です。
そこでこの記事では
・原状回復をゼロにするためにできる家具・家電の対策
・賃貸に備え付けの設備を大切に使い続けるためにできること
について、ご紹介したいと思います。
トラブルを未然にふせぎ、安心して生活・退去するためにも、今からできることをコツコツ取り組んでみましょう。
家具を有効に活用するための4つの対策
まず、部屋の中で特に数が多くなりやすい「家具」についてです。
家具は家電と違い、大きさもデザインもさまざまですが、できる対策はそう変わりありません。
次の4つのポイントを実践してみましょう。
床を守るために私がした2つの対策
毎日生活する以上、もっとも損傷リスクが高くなってしまうのが「床」です。
生活で発生しやすい床の損傷は、主にこの3つがあげられます。
・落下物によるへこみキズ
・摩擦や粘着物による表面のへこみ・剥がれ
・カビ、腐食など水濡れによる素材の劣化
物件自体の立地や日当たりに影響を受けやすいですが、日常生活の不注意や確認不足が原因のものも多く、十分対策可能です。
落下物から床を守ろう
日常生活でよく使う固いもの・尖ったものは、落とせば確実に床をへこませます。
しかし、缶詰、包丁や鍋、ノートパソコン、はさみなど…どれだけ注意しても誰しも一度はやってしまうものです。落としたくて落とす人はいませんからね。
したがって、落とす前提で対策します。床にマットやラグを設置しましょう。
・玄関マット
・キッチンマット
・ラグ(カーペット)
・バスマット
部屋全体にカーペットを敷く方法もありますが、掃除がしづらくほこりもたまりやすくなってしまいます。
足音の軽減にも役立つ厚手のラグや、吸水性の高いマットを選ぶとよいでしょう。
また、落とすと床を傷つけそうなものは、最初から床に近い高さで保管しておくのも有効な手段の一つです。
当然ですが、落とす高さが高いほど床のキズは大きくなります。意識して保管場所を決めるだけでも、床を傷つけるリスクはぐっと下がりますよ。
日焼けの原状回復は自己負担になるの?
南向きなど日当たりのよい部屋の場合、普通に生活するだけでも床や壁紙が日に焼けます。
置いているラグや家具と床や壁の境界線にそって、きれいに色が変わるんですね。
この日焼けは「普通に生活していたらできてしまう」ものなので、借主負担にはなりません。借主が不注意や故意で起きたことが原因ではないためです。
それでも長く住めば住むほど、日焼け跡は強烈に残りやすくなります。気になるようであれば、遮熱・遮光性能の高いカーテンは意識して選ぶとよいでしょう。
キャスター付き家具に要注意
キッチンワゴンやマルチラックなど、キャスター付家具を生活に取り入れる場合は注意が必要です。
家具に積むものの重さが重いほど、動かしたときのキャスター跡が床につきやすくなります。
頻繁に動かす家具であれば、動かしても床に跡がつかない程度の重さに調整しておくと安心です。
なお、人間一人分の負荷で同じ場所を何度も行き来するキャスター付きのイスは、事前の対策が必須になります。
重さの調整が難しく、長く住むほど利用回数が増えるため、対策しないまま使うと確実に借主負担での原状回復一直線です。
そんな事態を避けるには、イスの動く範囲にラグやマットを引くのがオススメです。その際、次の点を重視して選ぶとよいでしょう。
・表面が平坦である
・ウォッシャブル(洗濯可能)
・滑り止め付
・厚み15mm程度
・低反発素材
表面に毛が流れているようなデザインは、キャスターのほこりを積極的に捕まえてしまうので避けた方が賢明です。
何度も動くので、しっかり床に吸い付いてくれる滑り止め付を選びましょう。
薄手の方がイスを動かしやすいですが、厚みがないと床への衝撃を軽減できません。ある程度の厚みは階下への振動も軽減してくれて、一石二鳥ですよ。
2つの転倒防止対策を実践しよう
背の高い棚に限らず、家具の転倒は室内を非常に傷つけやすいです。家具の角部分が壁紙を削り、床をえぐってしまいます。
したがって、転倒を最大限ふせぐために次の対策をしておきましょう。どちらもコストのかからない方法なので、ぜひ試してみてくださいね。
重たいものは収納の下の方にいれる
本や雑誌、缶詰に米袋、シャンプーやリンス、ハンドソープの詰替など液体物は集めればかなりの重さになります。
これらの重いものを収納の上にいれてしまうと、何かの拍子に大変倒れやすいです。
また、実際に倒れたときに上から重いものが降ってくるため、人体にも危険が及びやすくなります。
重みのあるものをとにかく下の方に集め、家具を安定させましょう。
本は一番下にしまうのがオススメ
本棚として売られている商品であれば大丈夫ですが、市販のカラーボックスやマルチラックを本棚代わりにするときは1点注意があります。
それは本の重さです。
本棚など収納にはすべて「耐荷重」の表記が必ずあり、それを超えると本来の棚としての機能を維持することが難しくなります。
特に一番下以外の中板を本棚代わりにして、気づかないうちにしなって歪んで戻らないことはよく起きがちです。
本棚以外の収納を本棚代わりに使うときは、本をしまう場所と耐荷重に注意するとよいでしょう。
床と家具の間にできるちょっとした工夫
家具が転倒するとき、当然ですが手前側に倒れてくる可能性が非常に高いです。手前に倒れることがわかっているので、手前側にちょっとした工夫を施しておきましょう。
いらない布やダンボールを棚の底と床の間、手前側に挟み込んでみてください。厚みは0.5cmもあればOKです。
布を底全体にいれてしまったり、棚が不安定になるほどの厚みはだめですよ。
ほんの少しでも棚自体が後ろにそった状態で固定されることで、棚が前のめりになるのを防ぎやすくなります。棚の奥の方に重いものをおくように意識すると、なお良いですね。
家電を安心して使い続けられる3つの方法
次に、生活に欠かせない「家電」を安心して使うための方法についてご紹介します。
電化製品は、水や電気、火を扱う性質から傷つきやすい壁や床、建物自体に対して安全に使用することが大切です。
借りているお部屋を大切にし続けるためにも、次の3つの方法を生活に取り入れてみましょう。
電化製品は壁から離そう
家電をおくとき、ほとんどの人はまずスペースのことを考えます。すると、どうしても家電を壁にぴったり寄せたくなりますが、これは絶対にNGです。
電化製品は、稼働時に多かれ少なかれ必ず放熱しています。その熱が、壁紙を焼いてしまうのです。
汚れではないので落とすこともできず、茶色く焦げた壁紙を張替えるしかありません。電気焼けによる原状回復は、ほぼ100%借主負担での張替えになります。
最近は、冷蔵庫など一部電化製品には背面放熱の対策済製品もありますが、まだまだ数が少ないです。自分で注意しておくべきでしょう。特に、次の生活家電は要注意です。
・電子レンジ
・オーブントースター
・デスクトップパソコンのモニタ
・テレビ
この4つは、15cm以上壁から離して設置するのが望ましいです。ただし、スペースの限られる賃貸では十分に離すことが難しいかもしれません。
その時は、次のいずれかを壁と電化製品の間に設置してみてください。
・べニア板(薄いものでOK)
・ダンボール
・アルミパネル
ちなみに私は、オーブントースターの使用で2度壁を焼きました。オーブントースターは10cmほど離して設置していましたが、対策不十分だったようです…。
1軒目は長く住んだので負担なしでしたが、2軒目は1年ほどで離れたので張替え費用を支払いました。
皆さんは私のように原状回復の費用を負担しなくてすむよう、事前の対策をオススメします。
壁紙修復の自己負担がゼロになる?
壁紙は日常生活で自然消耗していくものなので、年月が過ぎるにつれ減価償却されます。
具体的には1年で80%、3年で50%、6年で残存価値が1円になるので、入居後6年住めば壁紙の修復費用は基本発生しません。
借主負担が1円では請求されることもなく、ゼロになるということです。
ただし、故意・加湿による損耗やたばこの臭いが壁紙の下までしみついている場合は借主負担となる場合もあるので注意しましょう。
大量の水を扱う洗濯機には要注意!
誰しも必ず定期的に使う洗濯機ですが、この洗濯機の使用で一番こわいのが「水漏れ」です。
洗濯機は入水口と排水口の2つで水量を管理しており、どちらも正しく接続されている必要があります。接続が正しくされていないと、ここから大量の水が漏れてしまうのです。
漏れた水は床から階下へ染み渡り、持ち物への損害や建物の損耗などさまざまな被害をもたらします。
被害に対する損害賠償は設備自体の安全性や管理面も考慮されますが、借主の過失である以上、借主負担は避けられません。
使用するにあたり、特に注意したいのが外出時です。入水口は洗濯機の使用開始時に接続の確認ができますが、排水口は脱水するまでわかりません。
もしも外出する時にスタートした洗濯機の排出口が正しく接続されていなかったら…考えただけでもぞっとしますね。
そんな事態をさけるためにも、次の3つの対策をオススメします。
・設置してから水漏れがないか何度か回してみる
・使いはじめてからもパーツの劣化などないか定期的に確認
・外出時には洗濯する回数はできる限り減らす
この3つに気を付けるだけで、十分さけられます。日々の生活には細心の注意をはらいたいものですね。
ガスコンロの位置で火力を選ぼう
自分で設置するテーブルタイプガスコンロの場合、購入時に「強火力」の位置が左右2種類あることに気づかれたと思います。なぜ2種類あるのでしょうか?
強火力のコンロは、文字通り通常のコンロの最大火力よりさらに強い火力を出すことができます。
料理によって使い分けられて大変便利な一方、強すぎる火力はキッチンの壁のタイルにヒビをいれてしまうのです。
そのため、ガスコンロは「キッチンの壁から遠い方に強火力があるコンロ」を選ぶことが推奨されます。購入する時に必ず気にかけておきましょう。
システムキッチンなど埋め込みタイプのコンロは、遠い方が強火力になっているので大丈夫ですよ。
備え付けの設備を大切にするための4つのコツ
最後に、賃貸物件に「備え付けられている設備」について見ていきましょう。
備え付けの設備は、物件自体の経過年数や設備の老朽度によって耐久性が変わります。古い方が当然色々と壊れやすいですが、新しいからと言って配慮が不要なわけではありません。
今ある設備を長く大事に使っていくための4つのコツについて、解説していきますね。
引越する時はあちこちに配慮しよう
引越はおおがかりな作業になる分、全体を通して配慮が必要です。
荷造りにはカッターやはさみなど刃物を頻繁に使用します。誤って床や壁まで傷つけてしまわないよう、作業場所に厚手の毛布を敷くなど対策しましょう。
また、搬入出時は疲れから周りが見えず、軽くよっかかったつもりで設備にヒビをいれてしまったなんて事故も起こりがちです。
引っ越し業者の作業員さんは細心の注意を払ってくれますが、完璧な人間はいません。
・破損が心配な設備はあらかじめ布など巻いておく
・搬出用のダンボールは玄関付近においておく
など、できることをしておくと安心ですね。
テープ類は厳禁!?
ガムテープやフックを張り付けるためのテープ部分など日常生活に大変便利なテープ類は、ついあちこちに使いたくなりますよね。
しかし、賃貸の壁や床に使うのは絶対にオススメできません。
賃貸の壁紙(クロス)は比較的安価なものが多く、正直いって多少の衝撃でやぶれやすく、はがれやすいです。
100均で売られているテープで固定するタイプのフックを貼ろうものなら、取り外すときに確実に壁紙ごと剥がれます。
また、一見丈夫そうなフローリングもテープで剥がれやすいので注意が必要です。
貼ってすぐに剥がす程度であれば平気ですが、OAタップなどの固定として貼り続けると剥がすときに床材の表面ごと剥がれます。
当然取り返しがつかず、不注意によるものなので100%借主負担です。
フローリングは経過年数を考慮しないため、何年住んでも借主負担での修繕になってしまいます。物件自体の耐用年数がよほど経過していない限り、結構な負担になるでしょう。
最近は壁を傷つけずに貼れるグッズや、床上を整頓するためのケースなど多く製品化されています。
賃貸物件に直接手を加えるようなことがしたいときは、まず先に調べてみることが大切ですね。
フィルター掃除は定期的に
賃貸の専有部に備え付けられている設備は、基本入居者がメンテナンスする必要があります。
実際の使用にかかわらず、定期的にお手入れして使用可能な状態にしておかなければいけないことは覚えておきましょう。
特に、次の3つは意識してメンテナンスしておくと安心です。
・エアコン
・換気扇
・通風口
どれも手前側のカバーを外せます。そっと取り外してから水拭き・乾拭きすればOKです。
動作確認しつつ、月に1~2回程度続けられるといいですね。
日々お手入れしておかないと「修理が必要になった原因は借主のメンテナンス不足による」とされ、修理費が借主負担になります。
実際の原因が台風や震災など自分以外にあったとしても負担しなければいけない可能性があるので、定期的な掃除がオススメです。
カビの弱点は「適度な湿度」と「通風性」
賃貸物件で常日頃から注意しておきたいのが「カビ」です。
日当たり・通風性が悪いほどカビが発生しやすくなります。かといって、その2つが良ければ絶対発生しないというものでもありません。
日常生活や退去時などの通常清掃で除去できるレベルなら大丈夫ですが、壁紙や床材にこびりついてしまうと大変です。
クロスの張替えや床材の張り直し…多額の費用が発生してしまいます。
カビは完全にふせぐことは難しいですが、普段から最小限に抑えることは可能です。
・窓や桟の結露をこまめに拭き取る
・部屋全体の湿度に気を配る
・1日に1回は換気
・水回りはこまめに掃除する
梅雨や冬場など湿気がこもりやすい時期は、窓に結露がつきやすく、窓枠や窓付近の壁・床にカビが生えやすいです。
また、冬場に「乾燥するから」と部屋を過度に加湿するのは絶対オススメできません。大量の結露が発生するほか、壁紙がめくれてしまうおそれもあります。
定期的な換気や除湿機など、室内の湿度を意識して調整しましょう。
キッチンや浴室など恒常的に水が発生しやすい場所は、こまめに掃除することで汚れもカビも一掃できます。
溜まりきった汚れやカビを落とそうとして設備自体を傷つけてしまった…なんてことないよう、普段からきれいにしておきましょう。
また、季節に関係なく意識して換気するだけでも大変効果がありますよ。
ほんの少しのこころがけで原状回復費用を「ゼロ」に
「借りた部屋を壊してやろう!」という意思をもって賃貸で暮らす人は、そういないと思います。
誰しもが日々気を付けていて、それでも何かの拍子に起きてしまう何かを防ぐことができるなら、それがベストですよね。
現状回復費用が発生する退去時は、ほかにも引っ越し費用や初期費用など多額の出費をさけられない時期です。
ぜひこの記事でご紹介した方法を実践し、少しでも費用の節約に役立ててください。
日々「借りている」という気持ちを忘れずに、大切に過ごすことをこころがけましょう。